しっかりと叱ってください!

「ほめて、育てる」という教育が定着しました。
書店の育児コーナーには、たくさんの「ほめ育て」の本が並んでいます。人からほめられること、それは大人になっても嬉しいことです。注意をされる場合でも、「よくがんばったね!今度はもっと〇〇のところを直すといいねえ!」というように、まずほめられた後で注意を受けると、気持ちよく素直に聞けるのは不思議です。

しかし、子どもを育てる上では「ほめる」は、成長に導く「一つの手段」にすぎません。ですから、同じ手段、同じ方法ばかりで育てていくことには限界があります。
 無垢で生まれてきた子ども達は、良いことをしたときには、手放しでほめられるべきですが、悪いことをしたときには、やはりしっかりと叱られなければなりません。こういう育てられ方をすることによって、初めて未経験の子ども達は「ものごとの善悪」を学ぶのです。

現代は、叱られた経験の無い子供ども達がたくさんいます。
私がクラスの中で「ほめられて育てられた子ども達」を相手にしていると、「???」ということは少なくありません。
 教室で学習をする、という姿勢以前の次元で、子どもである自分達が未熟な存在であり、大人と同じ立場にはない、ということをまったく理解していな子ども達・・・家庭では何でも思い通りになってきた王子様、王女様の子ども達は、まさに怖いものがありません。
 この状況は、決して子ども達にとって良いものではないのです。保育園や幼稚園、そして小学校・・・団体生活の中にあって、全員が「お山の大将」である状態から生まれる混乱・・・どんな数々の問題が生じてくるか、は想像に易いと思います。

私は、教室の中で叱る、声を荒げるということはほとんどありませんが、それでも尚、子どもの社会性を育てる意味において、必要性を感じたときには躊躇することなく叱ります。
 すると、家庭で叱られていない子ども達は、自分が叱られているということにまずは驚いてしまい、すっかり動転して「なぜ叱られているか」を理解することさえできない有様です。これでは、成長などできるわけがありません。
 こういう「怖いものなし」の子ども達を生んだ要因には「家庭内での父権の低下」や「親や先生の友達化」などがあげられるでしょう。
 1990年代初頭、反省ザルというものがブームになりました。その後、テレビのCMでも喝采を浴びたこの反省ザルのキャッチコピーは「反省だけなら、サルでも出来る」でした。しかし、叱られていない子ども達は、サルでさえできる、と言われた反省すらできない、というわけです。

子どもは未熟です。
まわりの大人を見て真似たり、生活の中で様々な発見をしながら、毎日どんどんと新しいものを習得しています。
 しかし、自分自身の力で物事の善悪を判断するには、あまりにも未経験であり、未熟なのです。要するに、いろんなことが自分でできる年齢になっても、その一つ一つのことが「良いことなのか?」「悪いことなのか?」を自力で判断できるだけの経験も知識も持っていないのです。

たとえば、こんなことを考えてみてください。
ある日、静かに遊んでいるなあと思ってふっと見てみると・・・あらら、ティッシュの箱からぜーんぶティッシュを出してしまって、とてもうれしそうにご満悦になっています!ママの顔を見たら、にんまり!
 シュッと引っ張ったら、出てくる・・・またシュッと引っ張ったら、またまた出てくる・・・これを発見した子供は、それはもう「ひゃああああああーっ!!」という気分だったでしょう!この子にとって、この「イタズラ」が初めてのことであれば、当然その子には何の罪もありません。その子は発見したのです!引っ張れば、出てくる、ということを学習し、学習したことを試してみたのです。ですから、この子にとって、ティッシュの箱から全部ティッシュを出してしまうことは、大きな発見の成果であり、悪いことをした、叱られる悪いことをしている、という認識はありません。

しかし。
残念ながら、この子は叱られるべき、なのですね。なぜなら、それは大きな発見であり、この子の頭をビンビンと刺激する学習成果でしたが、ティッシュはおもちゃではありません。いくら楽しい行為だったとしても、許されるべきことではないのです。
 「〇〇ちゃん、ダメでしょ!!」
ママは、大きな声で、怖い顔をして、しっかりと叱ります。大好きなママに叱られ、この子は
ここで初めて「ああ、これはしちゃだめなことだったのだ。」と学びます。
そして「〇〇ちゃん、ティッシュは楽しかったわよね。でもね、これは、お鼻が出た時にお鼻ををかんだり、あなたの手やママの手が汚れた時に拭いたりするために使う、大切な紙なのよ。だから、このティッシュで遊んじゃいけません!わかったわね!」と、1歳児には1歳児にわかる言葉で、2歳児には2歳児の理解できる言葉で、しっかりと叱り、教えます。

子どもを叱ること、それは、子どもの社会性を育てるために、とても大切な行為です。そして、叱られることによって、子どもは「叱られたから、ぼくは(わたしは)賢くなれるんだな」と、認識を持たせるためにも必要な時間なのです。
 ほめてばかりで育てようとしていたお父様、お母様、「反省さえできないおサルちゃん以下」の子どもにさせないためにも、しっかりと「叱ることの必要性」を認識しましょう。