子供は王子様、王女様??

現代の子ども事情を見ると、3人という家庭もある一方で、一人っ子の家庭が増えています。その背景には晩婚、初産の高年齢化があるのでしょう。
 こうなると、子どもは家庭の中では常に大人に囲まれ、常に親の目が行き届く状態で育ちます。増加している二世帯住宅では、子どものまわりには親だけではなく、祖父母という「大人」も存在します。
 そして、その祖父母は、大抵が昔ながらの「口うるさく厳しい祖父母」ではなく、「孫を楽しむ」という甘い存在である場合が多いようです。
 痛いところに手が届く、とはよく言ったもので、まさに大人に囲まれた子ども達は、自分で一生懸命に何かを訴えなくても、苦労して伝えなくても、何でも理解してもらえて、解決してもらえる環境の中にある、ということです。
 こういう、ある意味、大人から「奉仕される」生活の中では、子どもは「自分のことは自分で知恵を働かせて解決する」という必要がなくなりました。

また、こういう状況にプラスして、ここ十年ほどで定着した「ファミリー指向」。これは、家長である父親を筆頭とする縦社会ではなく、横並びの「仲良し家族」です。友達のようなパパ、姉妹のようなママ、などといわれることが、一種、かっこいいトレンドのように言われることもある・・・
 昔は、家長としての父がでーんと存在し、良くも悪くも、その父を怖れ、気遣い・・・そして、次に母、最後に子ども、という権力の分布がありました。そんな中で子ども達は、自然に年長者を敬い、両親の背中を見ながら育っていきました。
 しかし今では、日ごろは仕事が忙しく、家庭を顧みない(顧みられない)ことを引け目に思っている父親は、総じて子ども甘く、母親はそういう夫にストレスを感じ、尊敬の念が薄れていく・・・
 母親は、自分の希望通りにお稽古等のスケジュールをこなす我が子に満足し、気づかぬうちに自慢に思っています。だから、希望の星である我が子には、口うるさくはあっても、心のどこかでは「ま、いっか」の思いがあり、本当の意味での親としての権威はない・・・
 当然、こういう家庭生活の中で、子どもは身の回りの空気から、自分の存在が大きいこと、自分の力が行使出来ることを五感で感じ、「ぼくは家の中心、私はお姫様」という公式が生まれます・・・これは、後々、親は自分の首を自分で締めることにつながっていく、怖ろしい現象なのです・・・

私がここ数年、クラスをしていてとても驚くことは、子ども達に極端に「叱られた経験」が少ないこと、です。(むしろ、私がよく目にする光景は、子どもが自分の思い通りにならず、父親や母親を相手にきーきーと怒鳴り散らし、両親がなだめて、挙句の果てには「パパが悪かった」「ママがいけないのね」などと、わけのわからない謝罪をしているというもの・・・)

でもね。
幼い時期だからこそ、しっかりと「あなたは子どもである」という認識を植え付けてやらなければなりません。無知で未熟な子どもに、何の責任もありません。2,3歳の頃から、何一つ怖れるものはなく、傍若無人で、自分が偉いとさえ思っているような子ども・・・こういう子どもは勝手に出来あがったわけではなく、間違いなく、その親、その祖父母、その子を取り巻く環境がそんなふうに育ててしまったのです。

待てない子ども、も多いですね。今の子供は、親が誰かと話している時、電話中の時、家事をしている時、子どもは自分の思いついたことを、すぐに話そうとします。思いついたことを、すぐにしてもらおうとします。この事自体は、とても子どもらしく、別に奇異なことではありません。しかし、問題はそのことに対する大人の反応なのです。  普段大人に囲まれ、自分の思い通りを許されている王子様、王女様は、まわりの大人を「いつでも何でも」自分の言うことを聞いてくれる人と思っていますし、何でも自分の希望は叶えられるもの、と勘違いしています。そういう子ども達には「待ちなさい」と言葉が通じません。怖ろしいことには、「待ちなさい!」と言うと「なんで?」という言葉が返ってくることが多いのです。

 確かに子どもも立派な一個の人間です。家族の一員として、正当に扱われるべき存在です。しかし、まだ生まれてから数年もたたない、ひよこであることを忘れてはいけません。ひよこは、大きくなればニワトリになりますが、ひよこはニワトリとは違うのです。おたまじゃくしはカエルではありません。やごは、トンボではありません。

父親が、父親の権威を借りて、常に子どもに命令し、服従させることは良いこととは言えません。しかし、社会は不条理なものであり、この上下の関係は、上司と部下、先生と生徒、親と子であっても、時には「上が下に従わざるを得ない」という経験や意識も、子どもの頃から時には経験させるべき大事なことです。
 このことに関しては、詳しくは別の項目でお話をすることとして・・・父も母も、どんなに時代が変わっても、親としての「尊厳」を失ってはなりません。親としての「権威」は、保たれなければならないのです。それが、子どもの成長の途上で、大変大切な経験となるからです。

子育ては点の作業ではなく、線の作業です。今、1歳の我が子に施している家庭教育は、2歳に成長する子どもの中に残ります。そして、中学生や高校生の息子や娘は、テレビに出てくる目を覆いたくなるような「変な」「奇人」に突然なるのではなく、3歳や4歳の延長線上にあるのです。
楽しい事、楽なことのみに興味を示し、自分にとってイヤなことや、辛いことからは目を背け、拒否する現代の中高生。そのほとんどが自由、自立だけを求め、その自由や自立にともなう大きな責任の意味を全く理解出来ません。
 今あなたのご家庭で、もしお子様を王子様や王女様にしていたら・・・・・十数年後には、テレビの中の「ギョッとする」中高生の親になってしまうかもしれませんよ。